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ミニストーリー
マイタウン安城 (12)
奇遇ですなー
稲垣 優

 息子が通う小学校へ授業参観に出かけた。

 授業後のざわめきの中、教室を出る。これから体育館で教育講演会があるという。

 持参のスリッパを引きずりながら、廊下を歩く。そのとき後ろから肩をたたかれた。振り向くと、さっき一緒に授業参観をしていた男がいた。知らない人だ。男は言った。

「あなたですね、うちの偏屈オヤジに気に入られた、△△△ビール好きな人は」

 びっくりした。先月、ビールを買いに酒屋へ行ったが、そのときのことを急に言われたからだ。話を聞く。その男は、あの酒屋のオヤジの息子さんらしい。

 二人で打ち解けて話していると、今度は前を行く男が立ち止まって振り向いた。

「あなたですか、うちのばあさんとあぜ道でしゃべってたっていう人は」

 またまた驚いた。聞けば、田植えをしていたあの肝っ玉母さんの息子さんという。いやはや、なんとも奇遇だ。

 三人で、学校のこと、子供のこと、家庭のことなどを話しながら体育館へ入る。空いた席を探して座ると、隣に見覚えのある顔があった。「あっ、あなたは」今度は私が声を出した。田んぼの中に小石や木切れを投げ込んでいた子の父親が、そこにいた。彼は「奇遇ですなあ」と笑った。なんともはや――。

 私は、安城に来てから知り合った人々が、こんなに身近な存在だったことを知り、驚いてしまった。同時に、自分が本当の安城人になれる日は近いという実感が、なぜだか私の中にわき上がってきた。私は快い空気に身をゆだねながら、周りの父親たちの顔を見つめていた。

copyright : Masaru Inagaki (『風車』40号掲載 1991.9.11執筆)

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