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ミニストーリー
マイタウン安城 (3)
子どもに謝る
稲垣 優

 市内をどう走っても結局市役所へ戻ってしまう私が、最初に「探検」したのは、市西部の新幹線駅の辺りだった。 家族四人で車に乗り、県道48号線を西へ向かう。しばらくすると「時計台」が見えてきた。息子が言う。 

「父さん、三河安城駅だよ」 そこで私が言った。

「あれは新安城駅だろう」

「えーっ、違うよ。新幹線の駅だから、三河安城駅だよ」

「何言ってるんだ。横浜の新幹線の駅は新横浜だ。だったらこの駅も新安城だろう」

 私が自信たっぷりに言う。しかし息子は譲らなかった。そして車内に重い空気が漂いだした。

 車を止め、駅を見にいく。みやげでも買おうと思った。地元に住んでいながら妙な話だが、私たちはまだ、安城人になりきっていなかった。

 駅へ入る。そこで私は、たいへんなものを見付けた。「三河安城駅」の文字だ。この駅は、息子の言うように三河安城駅という名らしい。

 さあ困った。明らかに私の間違いだ。横目で息子を見ると、そ知らぬ顔をしている。そのとき、何かの講演会で聞いた言葉を思い出した。「子どもに謝れない父親はダメ」

 焦った。駅名を間違え、それを通そうとしたのは私だ。素直に謝るべきだが、そんな気になれない。しかし……。思い切って言ってみた。

「父さんが間違っていた。この駅は三河安城駅っていうんだな。ごめんよ」

 すると、それまでそ知らぬ顔をしていた息子が、急に笑顔を見せた。自分の間違いを認め、素直に謝った父親への敬意さえ感じられる笑顔だった。息子は私の手を引くと、みやげ売場へと走った。

copyright : Masaru Inagaki (『風車』31号掲載 1990.12.5執筆)

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