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コラム
家のリフォーム需要はどんどんのびていくんだってさ
稲垣 優

 リフォーム産業は、これからどんどん伸びていくって話を聞いた。新聞にもそんなことが書かれているらしいけど、そういう記事ってあんまり読まないもんだから、全然知らなかった。

 ある設備会社を取材して聞いた話なんだけど、現在は住宅の新築が伸び悩んでいるとか。それなのに、リフォーム(増改築)は、相変わらず右肩上がりなんだってね。取材した会社の人によれば、日本人は土地に執着する傾向があるんで、一度家を建てると古くなっても引っ越そうとはせずに、増改築をするという。だから新築の件数は伸び悩んでも、リフォームは右肩上がりってわけ。この話を聞いて、わたしゃあ「なるほどねえ」と納得してしまいましたよ。

 欧米では、家は「投資」の対象のように扱われているとか。ガーデニングが本格的にやられるのも、そうした基盤があるからかもしれない。数年前に取材したあるハウスメーカーの人が言ってたんだけど、アメリカなんかだと、どんどん住み替えをするそうだ。

 結婚してまだ子供もいないうちは、こじんまりした家を買う。収入も少ないから、大きな家は買えないしね。で、少し年齢が進んで、子供も成長してきて――となると、家を買い換える。子どもたちが一人前になってしまったら、それに見合った家に移る。そして子供が巣立ったら、夫婦にぴったりな家に替わる。

 自分たちの状況に合わせて「今」にぴったりな家へと買い換えをするのが、欧米的な発想だそうだ。だから住んでいる間に、家や庭を、よりよくする。次の家を買うときは、今の家を売るわけで、そんなときに少しでも高く売れるようにと、丹精込めて手入れをするわけだ。だから欧米には、古くてもキレイで立派な家が少ないくないらしい(って私は自分で見たわけではないから、詳しいことは知らないけどね)。

 日本はといえば、その土地、その地域に根を下ろすことをヨシとする。住めば都というけど、単に慣れてしまうだけでなく、そこに腰を落ちつけることがいいっていう考え方だ。これは単に「土地に執着心があるから」というよりも「一カ所に腰を落ち着かせたい」という願望が強いからだと思う。だから自ずと土地に執着するようになるのではないだろうか。

 さて、リフォームの話に戻ろう。リフォームってのは、家の一部を直すだけだから、それほど金額がかからないような「錯覚」を持つ。でもそうじゃないんだなあ。ちゃんとやると1,000万円ぐらいかかちゃうことだって少なくないようだ。やり方によっては、建て直しと変わらないくらいの作業だもんね。それでも、それまで住んでいた家を少し残してリフォームする。この発想って、私は結構好きだけどなあ。長年住んだ家への思い入れを残す。家への感謝を形に残しておきたいっていうか……。

 こんなことを言うと「なに乙女チックなこと言ってんだか」と笑われそうだけど、やっぱり家って、ある種の思い入れを起こさせるものでしょ。クルマと似ているよね。だから家を建てるとき、またリフォームのときは、だれもが間取りなどを真剣に考える。機能的に、便利に暮らすためなんて「大義名分」を口にするけど、ほんとはそれだけじゃない。家に対する思い入れが大きいし、家は単なる住みかじゃない。家族の生き方を代弁する(ちょっとおおげさだけど)ものとも言える。だからどうしても思いがこもる。

 でね、結局のところ、日本の家の場合、新築のあとはリフォームになる傾向が強いという。そこで、これから家を持とうと思っている人に一言。これも取材で聞いた話だけど、リフォームしやすい家と、しにくい家があるという。先祖の霊がついてるからリフォームしにくとか、そういうオカルト的な話じゃない(あたりまえだけど)。

 リフォームしやすいのは、なんといっても在来木造建築の家。簡単に言えば、柱があって、柱と柱の間に壁があるっていう、昔ながらの家だね。今では土壁の家は少なくなって、グラスウールなんかで(断熱性を上げた)壁を作っているけど、工法としてはこれも立派な在来工法。この建て方の家なら、リフォームも簡単。なんとでもなるとか。

 反対にリフォームしにくい家は、2×4(ツー・バイ・フォー)の家。この工法は、家全体を壁で支えているんで、改築が難しいんだ。トイレやお風呂を改装するだけなら全然問題ないけど、間取りを買えたり、増築したりするときに困る。壁で建物を支えているから、壁をぶち抜いて改築するわけにいかない。そのあたり、自由度が低いんだよね。もともと2×4は間取りの自由度が低いし、開口部(窓など)を大きくとれない。これも壁で家を支えているから。ただし、断熱性がすごくいいから、夏涼しくて冬温かい室内空間を作れるんだよね。ちょっとの冷暖房で、効果バツグンってわけ。在来工法はこの辺りではポイントが低い。

 ただ2×4は、湿気に悩まされることが少なくない。だから最近の2×4の家は、電気で強制換気(24時間の)をするようになってるよね。これも湿気対策が大きいみたい。湿気ってのは、ないと困るけど、多いと家を腐らせるし、ダニやカビの原因になるから、家の大敵でもある。そういう意味では、ムク材を多用すると、余分な湿気を木材が吸ってくれるし、乾燥すれば湿気を出すという調湿機能を発揮するからいいんだけど。ただムク材ってのは高いからね。そのあたり、難しいんだけどね。まあ、合板でもいいようだけど、そうなると今度はノリなどの化学物質が気になちゃったりして……。ま、さすがに最近では、有害といわれるホルムアルデヒドは使われていないだろうけど。

 なにはともあれ、今後リフォームの需要はどんどん進むらしい。外壁をきれいにするために、ペンキやモルタルなどの吹き付けをするかわりに、メンテナンスのいらない外壁材に替えちゃうってのもリフォームだから、需要は増えるわけだ。

 家を持つと、それだけでは終わらない。自分が住んでいる間は、なんやかんやとメンテナンスが必要になる。そのあたりもクルマと似ている。だから思い入れが大きくなるのかもしれない。すぐにフリーズした昔のマックが、どうしても手放せないのと似てるかもね(なんのこっちゃ)。

copyright : Masaru Inagaki(1998.3.12)

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