「だから、宇宙人は絶対にいるのさ」
赤い服の友人が言った。
「俺は、いないと思うな。だって誰も見たことないじゃん」
緑の服の友人が言った。
二人の間で僕は黙っていた。この話題に入る気分じゃなかったからだ。
僕たちくらいの子供だと、宇宙人がいるのかいないのかを学校からの帰り道で真剣に議論できる。赤服が言う。
「だってさあ、空にはあんなにたくさんの星があるんだぜ。だったら俺たちみたいな生物が住んでいる可能性があるじゃないか」
「いや、そうじゃないよ」緑服が応戦する。「いつだったか、担任の先生が言ってたじゃないか。広い宇宙の中で、俺たちが生まれたのは奇跡的なことだったって。だから宇宙人がいないと考える方がふつうなんだよ」
「うーん。ということは、もしだよ、もし宇宙人がいたとしたら、俺たちと同じような格好をしているわけか?」
「何でだよ」
「だって俺たちの祖先が生まれたのは奇跡的なことなんだろ? だとしたら、宇宙人がいたらそれも奇跡的に生まれたわけだろ? だったら俺たちと似ていてもおかしくないじゃないか」
「ああ、そうだね、それは言えるかもね。でもさ、そうなると、どうやって宇宙人かどうかを見分けるわけ?」
「うーん」
赤服と緑服の両方が、うなっている。大きな問題に遭遇して悩んでいるといった顔だ。そこで僕が言った。
「宇宙人は特別な宇宙船に乗ってくるんじゃないの?」
「そ、そうだよ!」赤服だ。「宇宙からくるから宇宙人なんだ。だったら俺たちが今まで見たこともないような乗り物でやってくるに違いない。それに乗ってくるヤツが宇宙人だ」
「そうか、そうだよな。だって遠い星からくるんだから、俺たちの親が毎日乗ってるような乗り物とは全く違うはずだよね。今日は、さえてるじゃん」
緑服が僕を見て言う。「さえてる」と言われてちょっとうれしかったが、もう、この話題から離れたかった。
そのとき、僕たちのすぐ上でキーンという金属音がした。見ると直径五メートルくらいの円盤が近づいてくる。窓越しに誰かが手を振っている。
「あ、ママが迎えに来てくれた」
赤服が言う。その言葉が終わらないうちに、円盤は赤服の近くで止まり、彼を乗せて飛び立ってしまった。同じように緑服も「ママ」のお迎え円盤で帰っていった。
一人になった僕は、つぶやいた。
「お前たちが宇宙人なんだよ」
辺境の星に一家でたどり着いた地球人である僕の一家。今さら自分が地球人--つまりこの星から言えば宇宙人であるとは言えないで、毎日を過ごしていたのだった。
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