言い出しっぺは、孝志だった。それに乗ったのが真由美だ。怖いモノ見たさだった。静夫はあまり賛成ではなかったが、十分注意することを条件に、一緒に行くと言った。
たまたま合コンで出会った三人。互いに同じ会社で、入社も二年前という偶然の一致からか、妙に気が合い、三人で抜け出した。そして心霊スポット大好き人間の孝志が、霊が現れると言われる場所へ二人を誘ったのだった。
「この沼には、たくさんの目撃証言があるんだ。俺の友達の友達が、水辺まで行って引き込まれそうになった。だから沼に近づいちゃいけない。周りの道を歩くだけだ」
全国の心霊スポットを回っているという孝志の言葉を聞いて真由美が、
「本当に出るの?」と言う。
「何言ってんだよ。本当に出なきゃ、心霊スポットじゃないだろうが」
その言葉にますますビビる真由美。
沼の周りを三人で並んで歩く。しばらく行くと静夫が立ち止まり、言った。
「いる。あそこの木の陰だ。二人の男性がこっちを見ている」
「ひえ~。やめてよ。どこ? あの柳の木? 私には見えないわよ」真由美がビビりまくる。
頭の向きを変えて静夫が続ける。
「こっちの岩の上にもいる。女と子供だ。ニヤニヤしてこっちを見ている」
「お、おい、静夫。おまえ、見えるのか」孝志が言う。
「ああ、少しは」静夫が控えめに言う。
それを聞いて孝志が言った。
「こういう場所は、気をつけなくっちゃいかん。俺や真由美には見えないけど、写真を撮ると白いモヤなんかが写るかもしれない。もし赤いモヤだったら、結構やばいんだ」
テレビの心霊番組で聞きかじった知識であることは、まず間違いない。静夫は聞き流して二人を促す。
「ここは、やばい。すぐに帰ろう」
「私、足が動かない。どうしよう」
真由美の言葉に、孝志が「俺がおんぶする」と言った。そして三人は、今来た道を早足で戻りだした。
*
「見てみろよ。あいつら、めちゃくちゃビビってやがる。笑えるよな」
太っちょが言った。答えて、のっぽが言う。
「俺も、あんなときがあったぜ」
「それにしても、あそこまでビビることはないんじゃないの? あ、こけた。見てらんねえなあ」
「こっちへ来れば、ビビってたのがバカバカしく思えるようになるけどな」
柳の木の陰で、二人が笑う。岩の上の親子も楽しそうだ。今日も心霊スポットは大にぎわい。霊の姿にビビりまくる人間見たさに、多くの霊が集まってくる沼なのであった。
読みもののページ
ショートストーリーを中心に、しょーもないコラム、Mac系コンピューター関連の思いつきつぶやきなど、さまざまな「読み物」を掲載しています。
20世紀に書いたものもあり、かなり古い内容も含まれますが、以前のまま掲載しています。
Copyright Masaru Inagaki All Rights Reserved. (Since 1998)