私が小学生のころに作ったバルサの潜水艦を気に入った吉田君だったが、それ以上はなかなかしゃべらなかった。そこで、私の方から話しかけた。
「家では何してるの?」
「飛行機作ってる」
「吉田君は、飛行機が好きなんだね」
「うん」
「どうしてそんなに好きなんだい?」
「分かんない」
「いつごろから好きになったのかな」
「小さいとき、父さんと母さんに空港へ連れていってもらったときから」
最後の言葉は、はっきりしていた。まるで自分の大切な何かを守るかのような口調だった。
家に帰って、妻や子供たちと話をした。もちろん吉田君のことだ。妻は「吉田君は、もっとご両親と一緒にいたいんじゃないの?」と言う。だから両親と行った空港の思い出を、今でも大切にしているんじゃないかと。なるほど、そうかもしれない。共働きの吉田さんご夫妻はいつも多忙で、日曜日でも夫婦がそろっていることはまれらしい。
独り遊びをする吉田君を見たとき、せっかく隣同士になったんだから仲良しになろうとした。ところが吉田君に必要なのはご両親らしい。そのことをご両親に分かっていただきたいものだ。でもどうしたらいいのだろう。私が直接話せば、押しつけがましくなってしまう。これはいけない。
しばらく考えて結論が出た。私は妻と子供たちに言った。「簡単じゃないか。お隣のご両親とうちの家族が友達になればいいんだ。事はそれからだよ」
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