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ミニストーリー
マイタウン安城 (14)
好きなことから始めてみよう
稲垣 優

 バードウオッチングが趣味だという河崎さんに触発されて、私も何か始めてみようと考えた。ところが、いざとなると何をしたらいいのか分からない。そこで妻に相談してみた。

「河崎さんは、鳥を見るのが好き。それでバードウオッチングなのよね」当たり前の話だ。妻は続ける。「じゃあ、あなたは何が好きなの? まず、そこから考えた方がいいんじゃない?」

 なるほど、そうだ。何か趣味をと考えると、なかなか思いつかないが、自分の好きなことが趣味にならないかと考えれば、案外簡単かもしれない。そこで考えてみた。

「やっぱり、食べることが好きだなあ」

 私の答えに、妻はあきれ顔になった。それでも気を取り直すように言った。

「それなら料理でもやってみたら」

「料理か――」

 これは、面白いかもしれない。食べることが好きで、これまで、タイ料理、インド料理、イタリア料理、ドイツ料理、そして和食と、安くておいしいといわれる店を探して足を運んできた。その経験が生かせるかもしれない。うまいものを作って、家族を驚かせることができるかもしれない。そう考えると、ファイトがわいてきた。

 料理で人の輪が広がるかどうかは分からない。でも河崎さんは、鳥を見るだけで人の輪ができた。それに、どうせなら楽しめた方がいい。

 私はさっそく「今夜のおかずはオレが作るぞ」と妻に言った。妻は、にっこり笑って「お願いね」と言った。何だか計略にひっかかったような気もしたが、まあいい。自分が面白そうだと思えるものが見つかったんだ。こいつは毎日が楽しくなりそうだ。

copyright : Masaru Inagaki (『風車』42号掲載 1991.11.18執筆)

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