Reading Page

 
グダグダ
私がケーブルテレビを導入しない理由
稲垣 優

 ケーブルテレビは、今では当たり前の存在になりつつある。

 アメリカに比べれば、日本のケーブルテレビの普及率はかなり低いようだが、それでも自治体あるいは第三セクターなどが中心になって、そこら中の街でケーブルテレビが利用できるようになってきた。

 私が住む街にも、ずいぶん前からケーブルテレビがあった。しかし私は、一度もその恩恵にあずかったことがないのだ。

 ケーブルテレビが身近でないため、実際にどんな楽しみ方があるのか、感覚的に理解できない。膨大な数のチャンネルがあるとか、衛星放送がアンテナなしで見られるとか、まあ、いろいろあるようだ。子持ちの間で話題になるのは、アニメチャンネルの存在。友人のKは「うちの子は、最近、ヤッターマンにはまってる」と言っていた。ヤッターマンとは、知る人ぞ知る(笑)タイムボカンシリーズの後半で出てきた作品だ。タイムボカンシリーズについて知らない人は、お父さんかお母さんに聞こう(笑)。

 さてそんな「子守用品」としても有益なケーブルテレビだが、私は、ちょっと違う思いで、このシステムの普及を眺めていた。

 たしか2年近く前のことだったと思う。東京の、とある私鉄沿線で、ケーブルテレビを使った実験的なサービスが行われた。それまでは、ケーブルテレビといえば、テレビの拡張版くらいにしか思われていなかったのだが、この実験では、もっと進んだシステムとしてケーブルテレビが使われていたのだ。そう、ケーブルを使ったインターネット接続だ。

 当時、パソコン通信(Nifty Serve)の情報コーナーでそのことを知った私は、非常に興味を持った。ケーブルテレビからインターネットに入ることに興味を持ったのではない。私を引きつけたのは、そのスピードだった。

 当時の詳しい情報は記憶にないが、ケーブルテレビ網を使ったインターネットは、驚くほど速いということだった。

 インターネットを使うとき、サーバーとデータをやりとりするわけだが、それには上りと下りがある。こちらからサーバーへ向かうのが上り。サーバーからデータを受けるのが下りだ。ウェブサーフィンをするときは、断然下りが多い。ホームページを見るという行為は、サーバーからページのデータを受け取ることになるわけで、これは下りにあたるからだ。アンケートやオンライン・ショッピングのフォームに書き込み、送信ボタンを押せば、上りを利用することになる。メールを送るのも上りだ。しかし一般的には下りがとことん多い。

 上りと下りでは、スピードが違うことが多い。そしてケーブルテレビの場合は、格段に下りのスピードが速いというのだ。

 前述の友人Kは、私の街にあるケーブルテレビのスタッフに知り合いがいるという。その知り合いから、ケーブル・インターネット(こんな言い方をするのかどうかは知らないが)について聞いてきたと言って、先日わが家へ電話をかけてきた。少し前、わが街でもケーブル・インターネットが利用できるようになったとは聞いていた。しかし詳しい内容は知らなかった。だからKの話には、大いに興味を持った。

 彼の話はこうだ。わが街のケーブル・インターネットは、上りのスピードが128kbpsだという。一般のINSの二倍、つまりINS64を二回線使ったときのスピードだ。そして下りは、なんと51Mbpsだというのだ。私は耳を疑った。5Mbpsの間違いじゃないかと思った。しかし彼は、資料を見ながら、確かに「(約)51Mbpsだって書いてあるぞ」という。本当にこれほど速いのだろうか。

 私のインターネット環境は、いわゆるISDN。NTTのINS64に加入し、NTT-TE東京のTAであるMN128を使っている。本当はMN128 SOHOにして、ダイアルアップルーター環境にしたいのだが、いかんせん、経済的な余裕がない。もしそれをやるなら、その前に仕事用ソフトウエアのバージョンアップの方が先というものだ。で、私の環境では、秒あたりの転送ビット数は64k。つまり64,000bps(ビット・パー・セコンド)なわけだ。ところがKの話が本当なら、わが街のケーブルテレビでは、その約800倍の51,000,000bpsというスピードだというのだ。これはすごい。めちゃくちゃすごい。加えて彼は言った。「10MBのデータ転送にかかる時間は1分だってさ」う~ん。信じられない。64kbpsだと、どんなにネットの状態がよくても20分以上はかかるのだ。

 でもまてよ? えっ? 800倍のスピードじゃないの? なのに10MBのデータダウンロードだと、20倍のスピードになっちゃうの? あれ~? なんだかよく分からないが、まあ、いいか(笑)。とにかく、これまでのISDNに比べると、格段に速くなるのは間違いないらしい。

 こんな話を聞いたら、早速登録して楽しみたいものだ。しかし私には、それができない理由があった。経済的な問題だって? もちろんそれは、ないとは言えない。しかしKの話によれば、月間15時間以内なら4,000円/月だという。これは高いようにも思えるが、データの転送時だけ時間が測定される(パケット通信ってこと???)ということだから、電話回線(ダイヤルアップ)の場合と同じに考えることはできない。たとえば文字の多いサイトに行き、同じページをずっと読み続けている場合は、ダイヤルアップだと、何もしなくても回線がつながっていれば課金される。定額制のプロバイダーなら課金はないが、電話料金はどんどん増えるのだ。

 しかしケーブルの場合は、データの動きがなければ課金されないという。さらに電話回線を使っていない。ということは、一日中接続していても、ページをほとんど動かさなければ、課金は限りなくゼロに近い。もちろん基本料金はあるので、その時間内なら追加の課金はないのだが。

 となると、一日中つなげておいて、たとえば1時間ごとにメールをチェックするようにメーラーを設定しておけば、いちいちメールチェックにいく必要がなくなる。まるで専用線のような環境を作ることができるのだ。

 話を戻そう。どうして私が、わが街のケーブル・インターネットに加入しないのか。いや、しないのではなく、できないのだ。

 私の家は、田んぼのすぐ近くにある。50mも歩けば、一般民家がたくさんある場所に着く。しかし私の家の周りは、わが家を入れて5軒しかない。うちは農家ではないが、そういう環境に家を建ててしまったのだからしょうがない。で、50m先の家々は、すでにケーブルテレビの恩恵にあずかっているのだ。たった50mケーブルが来ていないだけで、私はケーブルテレビを利用することができないのである。悔しいじゃないか。

 もちろん問い合わせてみた。ケーブルテレビの接続をしてくれるという近所の電気屋に聞いてみた。そしてら、電気屋の親父は冷たいことを言った。

「お宅の住所からするとねえ…。ああ、そこは計画すらないですね」

「えっ? 計画がないって、これから先ずっと、ケーブルテレビを利用できないってこと?」

「そうですねえ。計画がないんだから」

 それはないでしょ。50m先まで来てるのに。私は悲しくなった。どうしてなんだ。

 テレビ番組が見られないくらいのことなら、どうってことはなかった。しかしである。とうとうわが街にもケーブル・インターネットが来てしまったのだ。そして驚くほど速いというではないか。

 私は悔しい。本当に悔しい。すぐにでも契約して、51Mbpsというスピードを体験したかったのに。

 そんな話を、くだんの友人Kにしたところ「よっしゃ、任せとけ。ケーブル・テレビ局に知り合いがいるから、聞いておいてやる」と言った。

 をを! 持つべき者は友達だ。ハイティーン時代からの腐れ縁だが「Kよ、おまえと友人でよかった」と、そのとき(久々に)思ったのだった。

 


後日談

 上記のケーブル・インターネットについて、もう少し詳しい情報が入った。まずスピードだが、下りが51Mpbsというのは、ちょっと違うのではないかと、水谷氏が掲示板にコメントをしてくれた。彼が言うには、下りのスピードは1.5Mbpsだと思うとのこと。これなら64kpbsの約20倍だから、上に書いた「10MBを1分でダウンロード」って話と合致する。さすがに51Mpbsはガセだったか? それともケーブル網内だけのスピードなのかもしれない。いずれにしても51Mbpsについては、未だ闇の中だ(笑)。

 それから利用料金だが、上記に間違いがあったので訂正したい。友人Kの話では、たしか「月15時間以内なら4000円」と聞いた気がする。しかし正しくは「月2000円のBコースは、1時間の網外従量利用料金がつく」「月4000円のCコースは、4時間網外従量利用料金がつく」ということらしい。

 ケーブル・インターネットは、ダイアルアップ接続とは違い、つながっている間中、課金される訳ではないとは上にも書いた。で、詳しく述べると、こんなことなのだ。

 網内(つまり私の街のケーブルテレビネットワーク内)での接続は、基本料金(月に2000円か4000円かのどちらか)だけで利用できる。メールの送受信も、網内のアドレスなら基本料金だけで利用可能とのこと。だから大きな添付書類をもらっても大丈夫ってことか?(笑)さらにWWW利用の場合は、網外のホームページからデータを転送しているときにだけ課金される。これが「網外従量利用料金」というわけだ。だからホームページを見る場合、網外からデータが流れてくる間だけが課金の対象になる。データを取り込んで、あとは読むだけの状態なら、接続していても課金されないというわけだ。

 ただしFTP等の場合は、つながっている間中、課金の対象になるとか。こちらは要注意ってことだ。

 さて、月2000円でデータ転送1時間というシステムは、果たして安いのか、高いのか。う~ん。使ってみないと分からないが、ページを頻繁に飛び回る人にとっては、ちょっと痛いシステムと言えるかもしれない。

copyright : Masaru Inagaki(1999.3.5)

読みもののページ

ショートストーリーを中心に、しょーもないコラム、Mac系コンピューター関連の思いつきつぶやきなど、さまざまな「読み物」を掲載しています。
20世紀に書いたものもあり、かなり古い内容も含まれますが、以前のまま掲載しています。