QuarkXPress(クオーク・エクスプレス)というソフトウエアをご存じだろうか。DTPをやってる人たちには「知っている」どころのソフトではない。いわゆる「三大ソフト」の第一に挙げられるものだ。ま、知ってる人には「釈迦に説法」だけど、知らない人もいるんで簡単に説明する。
一言で言えば、レイアウトソフトだ。主に商業用の印刷物を作るときに使う。で、マックによるDTP(Desk Top Publishing)が発展したのは、こうしたソフトがあったからこそなんだけど、黎明期はQuarkXPpressではなく、Aldus PageMakerというソフトが突っ走っていたらしい。PageMakerは今でもあるが(今はAdobe社が買い取ったが)、歴史が長いのだけれど、機能的には後発のQuarkXPressに遅れてしまった。現在、DTPによるレイアウトソフトといえば、やっぱりQuarkXPress。使いやすさといい、安定性といい、ピカイチといえる。だからデファクト・スタンダードになっている。
で、Windowsの世界では、QuarkXPressが発売されていなかったので、Adobe PageMakerが主流だったらしい。でも今年、QuarkXPress日本語版のWindows版が発売(アメリカでは前のバージョンあたりからWiondws版もあったらしい)になる。これにより、Windowsの世界でも、QuarkXPressがスタンダードになる日が、近い将来くるだろう。そして気の早い人たちは「DTPはWindowsでやるのが標準になる」と言っている。ま、そういう日が来るかどうかは分からない。その前に、Appleが新しいOSを出して、Windowsユーザーも巻き込んでしまうってことは、十分考えられる訳だしね(Mac OS Xなんかは期待できそうだし)。
さて、そんなプラットホームの話は、現時点ではどうでもいい。私が言いたかったのは、QuarkXPress自身のことなんだ。
すでにアメリカではQuarkXPress4.0が発売されており、日本でも5月29日に日本語版が出荷されたいう。パソコン屋を回ってないんで、真偽のほどは分からないが、ま、メーカーが言ってるんだから間違いないだろう。でもって、バージョンアップも行う。
バージョンアップってのは、本当にいい習慣で、一度正規ユーザーになると、その後は、新しいバージョンが出ても約3分の1の価格で購入できるというものだ。これには実際、助けられている。例えばDTP三大ソフトの一つであるAdobe Photoshopは、定価だと15万円以上するが、バージョンアップでは5万円程度で購入できる。これはうれしい。
で、QuarkXPressにおいても例外ではなく、毎度バージョンアップができるのだ。前回(3.1Jから3.3J)は確か5万円台だった気がする。定価が198,000円だったから、うれしかった。ところが、今回のバージョンアップは、なんと99,000円だというのだ。そのうえ、製品の価格はオープンプライスとはいうものの、20万円台の後ろの方だとか。ぬわんだと~!?
ちょっとそれって、ないんじゃない? 前のバージョンが198,000円で、今度は20万円台の後ろの方なんて、そりゃあないよ。めちゃくちゃ機能がアップしてるとしても、ここで1.5倍の価格設定ってのは、どういうことなの?って気がする。ま、QuarkXPressは、一般ユーザーは絶対と言っていいほど買わないソフトで、DTPで飯を食ってる人間のためだけにあると言ってもいい。プロ用のソフトだから、これくらいの価格設定はいいのだ!と言われれば、ま、しょうがないかなとも思う。でもね、なんで急に1.5倍になっちゃうわけ? そんなに物価が上がった? 確かに前のバージョンアップは4年前だけど、だからといって、これってちょっとやりすぎじゃない?
私はまず、価格の問題で、萎えてしまった。ところが問題は、それだけではなかった。バージョンアップの方法も大きく変更されているのだ。
バージョンアップってのは、通常、メーカーからの「お知らせ」で、その存在を知る。メーカーが「バージョンアップをやりますよ~。だから申し込んでね~」という手紙を送ってくれるのが一般的だ。でもって手紙には、郵便局の振込用紙とかが入っている。それを使って振り込めば、2週間から1カ月後にソフト一式を送ってくれるというものだ。それがこれまでの「当たり前」だった。
ところがQuarkXPressでは、この方式をとらないらしいのだ。Quark社(日本法人だからクオーク社と書いた方がいいかも)からは、そういう振込用紙のようなものは送られてこないらしい。じゃあ、どうやってバージョンアップをするのかといえば、電話とファックスによる二つの方法だけのようだ。バージョンアップしたい人は、電話でクオーク社に申し込むか、ファックスで申し込むかのいずれか。申込用紙は、クオーク社のホームページからダウンロード(PDF)できる。
実際にクオーク社のWebサイトへ行って確認したんだから、間違いないだろう。そんでもって、どこにも「登録ユーザーの皆様には、改めて郵便物でお知らせします」なんて書いてない。このサイトには、プレスリリース(新聞発表ね)の記事も載ってるんだけど、そこにも「Webサイトが開設されるから、申し込みの手続きはここからできる」としか書いてない。
でね、ここだけ聞くと、そんなに問題じゃないように思えるけど、手紙などで知らせてくれないってことは、バージョンアップがあるかどうかも知らされないってことでしょ。まあ、雑誌の広告なんかでは知らせるだろうけど、登録ユーザー全員が雑誌を読んでいるわけではない。だから、なんか変じゃないか?って思える。
メーカーにしてみれば、ユーザーにバージョンアップしてほしいはずだ。シェアを確保したいだろうしね。なのに知らせない。その上「ほしい人は、自分で行動を起こして、こっちへ連絡してくるように」てな感じなんだよな。これって妙。で、揚げ句の果てに、10万円に手が届きそうなバージョンアップ料金。これって「バージョンアップするな」ってことなんだろうか。そんな気がする。あるいは「QuarkXPressは定番中の定番なんだから、買うのが当たり前。バージョンアップの方法だとか、価格だとか、そんな細かいことを言うな。どうせこのソフトがなけりゃ、仕事ができないんだろ!」てなことをメーカーが思っているんだろうか。もしそうなら、許せることではない。もしそうなら、日本全国のDTPで飯を食ってる人は団結して、闘うべきだ……なんて過激な気分にもなってくる。
まあ、もしかしたら「バージョンアップを始めますから、やりたい人は電話かファックスで申し込んでね。用紙はホームページから取ってね」というハガキぐらいは来るのかもしれない。それなら「バージョンアップを知らせない」ことにはならないけど、もしそうなら、どうして振込用紙などを一緒に送らないの? どうして(ホームページから取るのではなく)申込用紙を同封してくれないの? 封筒よりハガキの方が郵送料が安いから? そんなの変だよね。てことは、やっぱりそういう類の郵便物は来ないってことなんだろうなあと思えてくる。
この問題は、各所で波紋を呼んでいるらしい。大勢が「高すぎる!」てなことのようだ。中には「プロが使うソフトなんだから、高いのはしょうがない」という意見もあり、ま、それは認めるけど、上にも書いたように、だったらどうして急に定価が1.5倍になるの?と問いたい。もちろんバージョンアップ料金も高すぎる。消費税を入れたら10万円超えちゃうってことじゃないのよ。
ま、私なんかが、こんな個人のホームページでぐだぐだ言ってても、なんの役にも立たないかもしれないけど、私の知り合いにはDTPで飯を食ってる人が多いから、無関係な話ではない。ちょっとこれって、問題だと思わない?
識者の中には「みんなで使うDTPレイアウトソフトを、そろそろ考え直す時期に来ている」という人もいるそうだ。ホントだよね。Adobe PageMakerは、かなりよくなっている。バージョン6.5では、かなりQuarkXPressに近づいたという。でも6.5は、バグ含みだというウワサもある。6.0は安定しているようだが、機能的にまだまだ。となるとやっぱりQuarkXPressになってしまう。
ウワサによれば、AdobeはPageMakerとは別のレイアウトソフトを開発中だという。もしそれが本当で、QuarkXPressと同等かそれ以上の機能と安定性を持っているなら、みんなでそっちへ移りたい。新しいソフトを覚えるのは大変だが、納得のいかない仕打ちへのレジスタンスは持ちたいからだ。
とはいえ、きっと私はQuarkXPressのバージョンアップをするだろうね。こいつが定番だというのは、間違いなく事実だからだ。それに、やっぱりこのソフトが好きなんだ。でも、極力バージョンアップを遅らせようと思う。でもって、本気でみんなが別のソフトへ移行するなら、バージョンアップの権利を放棄してもいい(悲しいけど)。そのあたり、自分だけ先走りしてもしょうがないので(仕事にかかわってくるんだから)、周囲の人と、たんまり話をしたいと思う。そう、周囲の人というのは、DTPで飯を食っている全国の人のことだ。
注)バージョンアップについての詳細は、クオーク社のホームページを見てね(http://www.quark.co.jp/)。またバージョンアップの申込用紙は、ここからダウンロードできるけど、PDFなのでAcrobat Readerが必要になるよ。
●後日談
このコラムを書いてからずいぶんたって「バージョンアップの申し込み」封書が届いた。あまりに問題になったため、従来のバージョンアップ方法に戻すことにしたのだろうか?
しかしバージョンアップ価格の改訂はない。3DソフトのInfini-Dが4.0から4.5へバージョンアップしたとき、かなり高い金額を言ってきた。その後、バージョンアップ価格が変更され、半額くらいになった。それ以前にお金を振り込んだ人には、返金するというサービスも行った。私はまたInfini-Dが好きになった。そういう真摯な姿勢は感動を呼ぶのだ。
XPressは結局、価格を変えなかった。結局私は、いまだにバージョンアップをしていない。ほとんどやる気がなくなっている。Adobeの新しいレイアウトソフト(コードネーム=K2)のウワサが大きくなってきたからだ。
そして周囲のDTPで飯を食ってる人は、同じくバージョンアップをしていない。ウワサでは、XPress4.0のバージョンアップが始まって数カ月たっても、日本中でまだみんな3.3を使っているということだ。
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