子どものころ、疑問に思っていた。鯉のぼりのお母さんは、どこへ行ってしまったんだろうと。
「屋根より高い鯉のぼり/大きい真鯉はお父さん/小さい緋鯉は子どもたち/おもしろそうに泳いでる」緋鯉とは、火のような色の鯉だと母に教わったとき、その思いは一層強まった。緋鯉がお母さんで、真鯉がお父さんなら分かる。この際、子どもはまだ生まれていないことにすればいい。しかし歌は違う。
最近、この答えらしきものを発見した。話は古代の日本にさかのぼる。昔、田植えは女性の仕事だった。田の神(サノ神)を迎えて田植えが始まり、送って田植えが終わる。植え子は早乙女。女である。男は苗の運搬などを手伝うだけで、田植えを取り仕切っていたのは女たちだったそうだ。神に会うのは女だったのである。ほかの神事にも、こういう例は幾らでもある。そして、空から降りてくる神の目印(依代=よりしろ)に、のぼりを立てた。これが後の鯉のぼりらしいのだ。
5月5日(旧暦)、お母さんたちは忙しかった。今は、お父さんが○×社の田植え機で、四条だ、八条だと一挙にやってのけるが、昔はそうはいかなかった。屋根より高い鯉のぼりは、そんな昔のお母さんを思い出すように、親子で、はためいているのだ。「お母さん、頑張ってね」子鯉の声がする。「おい、頑張れよ」父鯉の声がする。日本の家庭はお母さんが守っているんだなあと、しみじみ鯉のぼりを見上げてしまうのである。
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