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コラム
モミジ
稲垣 優

 雪見酒ならむ“紅葉見酒”といきたくなる秋。モミジを見ながら酒を飲んでも、どうということはないが、酒飲みは何かと飲む理由をつけたがる。

 モミジは紅葉と書く。これを「もみじ」と読むか「こうよう」と読むか、いつも迷う。木の葉が紅葉(こうよう)したものを紅葉(もみじ)と呼ぶことは判っているつもりだが、混乱をさけ難い言葉だ。

 モミジの代表はカエデ。モミジはカエデの別称といわれる。また混乱が起こる。「モミジは状態を表す言葉で、カエデは樹木の名」と、はっきり区別すればいいようなものだが、山々を彩る赤い葉をカエデと呼ぶ気にはなれない。

 カエデという名は、青々とした葉を連想させる。カエデはカエルデともいわれ「カエルの手」の意味という。形が似ているからだろう。カエルといえばアマガエル。これはただの思い込みだろうが、この連想から、カエルデは緑の葉になる。だから真っ赤な山々の正体は、カエデでなく、モミジでなくてはならない。

 カエデが赤くなるのは、葉に含まれるクロロフィル(葉緑素)がなくなるためという。秋が深まるにつれて、カエデの葉は赤くなり、揚げ句の果てには落ちていく。同じ葉が青い葉に戻ることはない。そこが人間と違うところだ。酔っぱらいは赤くなり、限界を超えて青くなる。二日酔いで青くなる。もしかしたらこれは、また赤くなるための準備かもしれない。

copyright : Masaru Inagaki ffユニオン6号(1989秋号)掲載

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