中学生になって初めての夏休み、私はお母さんの実家へ一週間、遊びに行くことになった。おじいちゃんが一人で住んでいるので、話し相手になってあげようと思ったってわけ。両親は仕事があるので後から来ることになった。お母さんは「女の子一人で大丈夫かしら」と心配したけど、大丈夫だよと言ってあげた。
おじいちゃんちは農家で、家は古くて大きい。久しぶりだ。駅までおじいちゃんが車で迎えに来てくれた。家に着いてしばらくすると、おじいちゃんが買い物に出かける。今夜はすき焼きなんだって。
一人になってしばらくしたころ、小さな声が聞こえた。「もういいよ」と言っていた。なんだろう。私の心臓の音が少し大きくなった。
声が聞こえた方へ歩いてみると、縁側の突き当たりまで来た。ここは納戸らしい。また「もういいよ」の声。怖かったけど納戸の戸を開けてみた。中には誰もいなかった。
夕飯のとき、おじいちゃんに声の話をしたけど「気のせいだ」と言うばかりだった。
夜は、おじいちゃんの部屋で一緒に寝た。眠れないなあと独り言が口から出たとき、誰もいないのに人の気配がした。怖くなってタオルケットを頭からかぶると「みいつけた」と声がした。昼間と同じ声だった。
次の日も、また「もういいよ」と聞こえた。納戸から聞こえるので中を見たけど、やっぱり誰もいなかった。その夜も、布団で寝ていると「みいつけた」と声が聞こえた。
三日目の夕方、両親が来た。お盆休みに入ったそうだ。私は、お母さんに駆け寄って、奇妙な声のことを興奮して話した。でもお母さんも「気のせいよ」と言うだけだった。
そのとき、また声が聞こえた。
「ほら、聞こえたでしょ。『もういいよ』って言ってたよね」
私が訴えてもお母さんには聞こえないらしい。私はお母さんの手を握ってもう一度、訴えた。
また声がした。同時にお母さんの顔が変わった。お母さんは私の手を握ったまま、納戸の方へ進んだ。途中から走るように進んだ。
お母さんが納戸の戸を開けると、そこに女の子がいた。小学校低学年くらいのおかっぱ頭の子。お母さんが言う。「久美ちゃん、あれからずっと、かくれんぼをしていたの?」
女の子が答える。「うん。ずっと『もういいよ』って言ってたよ」
それに答えてお母さんが言う。
「もうおしまいよ、おしまい」
「どうしてなの。ずっと一緒に遊んでくれるって、約束したよね」
「あなたは、かくれんぼのとき、心臓の発作で死んでしまったの。だからもう、おしまいにしましょうね」
涙を流しながら言うお母さんの言葉を聞きながら、女の子は首をかしげている。そして言った。
「お姉ちゃんはもう、私と遊びたくないのね。分かった」
お母さんの顔がやわらかくなった。「どうか成仏して」と言いながら手を合わせた。でも久美ちゃんの言葉は終わっていなかった。
「お姉ちゃんが遊んでくれなくてもいいわ。だって一緒にかくれんぼをしてくれる子が見つかったもの」
私の体がぶるぶる震えだした。
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