「たまげたな、こりゃ大変だぜ」
初めに起きたヨウジが、部屋の中を見渡して大声を出した。それを聞いて、残りの七人も起き出した。
「なんだよ、朝っぱらからデカい声だしやがって。頭に響くだろうが」サトルが文句を言いながら起きる。
「何が大変だって?」ミツヒコが伸びをしながら聞く。
「誰か僕のメガネ知らない?」ヤスオが気弱そうに言う。
八人そろってヨウジの部屋で宴会を始めたが、酔いが回るにつれて、だんだんめちゃくちゃになっていった。考えられるバカ騒ぎは全部やった。全員で手をつないで歌った記憶もあり、そのときヤスオが「スイッチ入れっからなあ」と言っていた。
目覚めた全員が部屋を見渡す。テレビやテーブルがない。壁に掛かっていた時計も、ヨウジ愛用の抱き枕も、何もかもなくなっていた。
壁は黒ずみ、畳はホコリっぽい。まるで廃屋だ。さらに部屋の真ん中にあるデジカメ大の機器にみんなの目がいったとき、全員が改めて「大変だぜ、こりゃ」と口々に言い出した。
「と、とにかく、手分けして探すしかないな」ミツヒコの声に、ヤスオを除いた全員が「おお」と答える。ヤスオはといえば「何を探すんだよお」と、とぼけたことを言っている。苛立ったヨウジが「『今』に決まってんだろ」とヤスオの頭を叩いた。
全員が部屋の中をうろうろしだした。とにかく何か物を見つける必要がある。キッチンの流し台下をのぞいたり、玄関ドアの郵便受けを開けたりと、全員が思い思いの行動を取るが、何も出てこない。
しばらくしてミツヒコが「雑誌があったぞ」と叫んだ。全員が駆け寄る。カーペットの下にあったというそれを見て、部屋の主のヨウジが言う。
「二〇××年五月の雑誌か。タカノリが遊びに来たときに置いていったヤツだな。あいつがファンだったアイドルの特集が載ってるんだ」
「とりあえず、二〇××年はゲットだな」ミツヒコが言った。
「トイレのタンクの中にペットボトルが入ってた」ヤスオが薄汚れたそれを持ってきた。
「水の節約用だよ。ラベルがないからいつのものか分かんないし、自分でもいつ入れたか覚えてない」ヨウジがため息混じりに言った。
「押入の奥に割れたマグカップがあったぞ」サトルが言った。
「見たことないな。俺のじゃない」ヨウジが言う。
「てことは、だいぶ来ちゃったってことだな。まずいな」サトルが独り言のように言った。
「確かにそうだな。かなりヤバイな、これは」ヨウジが顔をしかめた。
二時間近くかけたのに、結局、役に立ちそうなものは、初めに見つけた雑誌だけ。
「これじゃあダメだ。このままじゃ帰れないぞ」ミツヒコが言う。聞きながらヨウジが頭を抱えて言った。
「だからヤスオに時空移動装置をいじらせたくなかったんだ。酔っぱらって表示画面を壊しやがったから、今が何年何月何日なのか、全く分かんないじゃないか。時空移動局のフィルターが掛かってるからこの部屋から出られないし、このままじゃ、永遠に元に戻れないぞ」
読みもののページ
ショートストーリーを中心に、しょーもないコラム、Mac系コンピューター関連の思いつきつぶやきなど、さまざまな「読み物」を掲載しています。
20世紀に書いたものもあり、かなり古い内容も含まれますが、以前のまま掲載しています。
Copyright Masaru Inagaki All Rights Reserved. (Since 1998)