ある土曜日、末永義和が自宅ポストから郵便物を取り出す。そこに大型電器店のDMなどに交じって、妙にごつごつした手触りの封筒があった。
「なんだ、これは」
義和は、いぶかった。宛先は確かに自分だ。しかし差出人の名前がない。
居間に戻った義和が、封筒を開ける。中から出てきたのは、なんと宝石だった。指輪、ネックレス、イヤリングなどいろいろだ。
「えっ……」
そこにいた妻、長女、そして義和自身も息を飲んだ。
「これって本物?」長女が言う。
「なんでこんな物がうちに?」妻だ。
「誰なんだ、送り主は」義和だ。
そして「警察に届けた方がいい」「誰かのいたずらじゃないの?」といろいろな意見が飛び交った後で、
「じゃあ、吉田貴金属店で見てもらおう」と義和が言った。
早速三人で出かける。車で二十分ほどでつく吉田貴金属店で、顔なじみの店長が例の宝石を受け取った。
奥へ入った店長がしばらくして出てくる。そして笑いながら言った。
「これは全部イミテーションです。夜店なんかで売ってるやつですよ」
なんだ、そうだったのか。気落ちした三人は、そのまま家へ戻った。
それからというもの、三日おきくらいに同じような封筒が届いた。すべて宝石類だが、前と同じようにイミテーションだと思われる。二度目、三度目のころは、義和もちゃんと開封して中をあらためたが、四度目、五度目になってくるとそれさえもせず、だんだん面倒になってきた。誰が何の目的でこんなことをするのかは知らないが、いいかげん、うっとうしい話だ。それでもイミテーションとはいえ、送られてきた物を捨てるわけにはいかず、それらは階段下収納のビニール袋の中で数を増やしていった。そんなことが一カ月も続いた。
*
ここは別の町の、ある地下室。
「そろそろいいころですぜ」黒シャツの男が言った。
「よし、じゃあ明日の夜、実行だ」相手の太った男が言った。
*
末永家に奇妙な封筒が着きだして一カ月後の土曜日、朝刊を見ながら義和が言う。
「恐ろしい事件が起こったもんだ。名古屋の宝石店で、時価十億円の宝石が盗まれたそうだ」
すると長女が「うちのはイミテーションばかりだけどね」と笑った。
それからしばらくして届いたのを最後に、封筒はぱったりと届かなくなった。家族の中から「どうしたんだろう」という声まで上がった。届くこと自体、奇妙だったが、いざ届かなくなると気になる。
そんな会話をした夜。午前三時。
「この家に間違いないんだな」末永家の外で男が小声で言った。
「そうです。ここの家の人間は、なんでも捨てられず、とっておくんですよ。だから俺たちが送ったものもずっと取ってあるはずです」
「お前もいい隠し場所を考えたもんだ。これなら一緒に盗みをやった連中に横取りされないで済むからな」
そして二人の男は、慣れた手つきで居間の窓ガラスを切り取り、カギをはずして中へ入っていった。
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