その店は薄暗く、テーブルや椅子は古くさかった。独特の雰囲気を持っているため、学校帰りに初めて来たときはビビったが、何度も通ったためか慣れてきた。常連と話をするようにもなり、僕はこの店が気に入っていた。
この日、僕のテーブルの隣に常連三人が座り、話しだした。
「俺、最近、変なんだ。みんなが俺に引き寄せられるんだ」チェックのシャツを着たヤツが言った。「この前なんか、車がすぐ後ろの電柱にぶつかったし、その前は飛行機がすぐ近くに落ちたんだぜ。やべーよ」
それを聞いて、黒いTシャツのヤツが言う。「それって、お前に引き寄せられるんじゃなくて、お前の近くに来たものが、おかしくなるんじゃないの? 車はハンドルがきかなくなってぶつかり、飛行機は故障して落ちたんだよ」と笑った。
黒Tシャツが続ける。「俺なんか、眠ると周りのものを動かすらしいんだ。ちょっとやってみようか」
言いながら目を閉じる。すぐにいびきが聞こえた。と同時にテーブルの上のグラスが小刻みに揺れだした。
「おお、ポルターガイストみたいじゃん」三人目のメガネが笑った。
黒Tシャツが起きると、メガネがしゃべりだす。「俺の場合、両手を上にあげると、周りのものが切れるんだ。この前は結構デカい木が倒れたし。ちょっとやってみようか?」
聞いた二人が、慌てて止める。「やめろよ。冗談じゃないぜ」
三人は、その後も自分たちの能力を自慢し合っていた。途中、誰かの「成長過程ではいろんなことがあって当然だろう」という言葉も聞こえた。
彼らの会話を聞きながら僕は「こいつらは超能力者か?」といぶかった。でもよく考えると、超能力と呼べるような力ではなさそうな気がする。しいて言えば普通とは異なる力を持つ「異能力者」というところか。
彼らの話が一段落したとき、チェックシャツが僕に話をふってきた。
「ところで君はどうなんだい?」
どうしよう。僕が普通の男だと分かったら、これからしゃべってくれなくなるかも。それは嫌だ。そこで僕は、思いつきでこんなことを言った。
「僕の場合、人魂――火の玉ね――を操れるようになったんだ。学校でみんなに気味悪がられちゃって……」
突然、周りの空気が凍り付いた。三人が厳しい顔になった。「えっ?」「マジかよ」「やばいよ」と言いたげな表情をしている。
僕は大いに満足した。これだけみんなを驚かすことができたのだから。しかし状況は、思わぬ方向へ進んだ。
黒Tシャツが独り言のように言う。
「てことは、お前、人間か?」
言葉と同時に、隣にいた三人がテーブルから飛び退いた。僕から離れようと、店の壁に向かって突進する。黒Tシャツの声が大きかったためか、店にいた全員が、三人と同じ行動をとった。椅子に座っているのは僕だけになった。
どこからともなく、声がした。「人魂なんて、妖怪なら生まれたときから操れるんだ……」
そして僕は見た。店にいたすべての者の真の姿を。頭に皿を乗せて口をとがらせた者や、体じゅう目玉の者、猫目の女……。僕は驚きのあまり、立ち上がることすらできなくなっていた。
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