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ミニストーリー
マイタウン安城 (17)
なんとお隣と趣味が一致
稲垣 優

 妻を講師にして始めようと考えた料理教室。そもそもこれをやろうと考えたのは、私にこれといった趣味がないからであり、趣味を作ることで安城の人の輪の中へ入っていこうと考えたからだ。しかしいざとなると、これで人の輪づくりができるのだろうかと不安になってきた。しかしまあ心配しても仕方ない。やってみることだ。そんなことを考えながら散歩から戻ってきた。

 隣の主人が庭に出ているのを見つけた。例の「犬のエサ忘れ事件」以来よく話す斉藤さんだ。私が声をかける。

 雑談の末に、私は、わが家で料理教室を開くことを話した。とたんに斉藤さんの目が輝く。私の言葉に大きくうなずく。身を乗り出して「いいですなー」を連発する。斉藤さんの態度が、あまりに衝撃的で熱烈だったので、私は思わず「ご一緒にどうですか」と言ってしまった。

 斉藤さんはすぐ反応した。「いいんですか?」

「え、ええ。もちろん」しどろもどろに答える私。

 斉藤さんは、自分も料理をやってみたいと思っていたと言い、友人に同じ思いの横山という男がいると言った。そして横山氏も同席していいかと尋ねた。私は「もちろんいいですよ」と圧倒されながらようやく答えた。

 料理教室の当日。約束の時間にドアベルが鳴った。玄関のドアを開ける。そこには、割烹着(かっぽうぎ)姿の男が二人立っていた。三十代後半の男の割烹着姿は、かなりおかしい。笑いをこらえて斉藤さんの隣を見た。初対面の横山さんは、料理への期待からか、これでもかというほどの笑顔でこちらを見ている。どうやら料理という趣味で、人の輪が広がりそうだ。

copyright : Masaru Inagaki (『風車』45号掲載 1992.2.18執筆)

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