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Mac &
これ1台でまかなえる(Cube登場)
稲垣 優

 2000年7月19日の午後10時。私はAppleのホームページにアクセスし、Mac WORLD EXPO NYからのストリーミングを受ける態勢に入っていた。うちの64kbps環境では、ストレスのないアクセスは無理とは思っていたが、案の定、映像はブチブチ切れるは、音声はとぎれるはで、タダでさえ英語聞き取りが苦手な私には、難行苦行の時間だった。

 それでも、新しいマウスとキーボード、さらには新しい色と価格のiMacや、マルチプロセッサのデスクトップがとぎれた映像の中に現れたとき、興奮を抑えきれなかったのは事実だ。「とうとうマルチプロセッサが出たかあ。Mac OS Xを待たずに出るとは思わなかった」というのが正直な感想だが、でもプロセッサのMHzを上げずにマルチにするのは、MHz競争に負けている(現実のスピードは勝っていても、数字が低いという意味で)Appleにとっては、よい選択だったかもしれない。

 さて、それらまさにテンコモリ状態の発表の後、なんと今回の目玉が登場したわけだ。Power Macintosh G4 Cubeだ。このときもストリーミングの映像が切れ、何がなんだか分からなかったが、Jobs氏が小さな白い箱をひっくり返して中身をやすやすと取り出している映像が見えたとき「なんや、これは!」と思わずモニタに向かって声を出してしまったのだった。

 それはまさにCubeだった。Jobs氏が創設した、かのNeXT社が出していたNeXT CUBEのように四角い形。ただNeXTの方はもっと大きく、そして黒かった。どちらかといえば「じゃま」な感じさえしたが、今回のCubeは違う。Appleの出したスペック表によれば、横&奥行きは19.5cm。高さは24.8cmというコンパクトさだ。今までのデスクトップの4分の1くらいの大きさ(体積)と言ったら大げさだろうか。いや、それを思わせるようなコンパクトさがCubeにはある。とにかく小さい。そのうえ、上品な雰囲気(まあAppleらしいわけだが)を持ち合わせている。上から見ると金属板が見えるためか、トースターのようにも見える(笑)が、これはご愛敬だろう。

 私はCubeを見たとき、なぜかSEを思い出した。コンパクトマックの代表的存在とも言われるSEだが、白っぽい筐体と、コンパクトさを強調するようなその姿に類似性を感じたのだ。そしてもしかしたらその思いは、完成度の高さを感じさせるものだったかもしれない。

 SEのころのマックは、コンピュータとして完成しているもので、ふたを開けて拡張したりしないものとされていた。だからSEの中を見るには、一般的ではない機器(マックオープナーなど)が必要で、これはとりもなおさず、一般のユーザーは中を見る必要がないとAppleが主張していると言えるわけである。つまり、買ってきたママ使ってくれればいいよというわけだ。

 今回のCubeもそういう意味では拡張性が皆無に等しい。メモリは1.5GBまで拡張できるが(これをApple Storeでやるとプラス50万円以上になるというから恐ろしい・笑)、PCIカードがさせるわけでもない。しかしUSBとFireWireがそれぞれ2ポートあることから、現在考えられる拡張性は、必要ないのかもしれないと思えてくる。ハードディスクを増設したければ、FireWireの外部HDDを付ければいい。MOにしてもCD-R/Wにしても、USBで対応できる。さらに画像のキャプチャリングなどは、もはやFirewWireなわけで、となるとSCSIを考えなくてもいいような気もしてくるわけである。

 その形状と同じようにポートの数もシンプルなCubeであるが、USBとFireWireを装備したことで、必要かつ十分である気がしてくる。さらにADCと呼ばれる新たなコネクションで、ケーブルの数は極力抑えられる。モニター、サウンド、USBなどは、ADC一本で済ませることができるというのだから、ケーブルで煩雑になりがちなコンピュータ環境にはうれしい話ではないか。

 とまあ、ポートにしてもなんにしても、とにかく拡張性を必要としないマックという感が強い。必要なものはそろえてある。あとはユーザーがどう使うかだと、Appleは言いたいのだろう。そして、拡張性がコンピュータの命であるような発想は頭から否定し、コンピュータとは何であるかを、改めてわれわれユーザーに問いかけているマシンであるようにも思う。

 つまり「コンピュータは使ってなんぼ」ということだ。コンピュータを使って、自分は何をやりたいのか、それがはっきりしているのなら、それが実現できるコンピュータが、そのユーザーに必要なコンピュータなわけだ。そしてCubeは、一部を除く多くのユーザーの、そんな「やりたいこと」を、あの小さな筐体でまかなってくれる気がする。実際、私がDTPをやるにしても、ビデオ編集をやるにしても、音楽制作をやるにしても、たぶんCube一台で十分まかなうことができると思う。もちろんメモリの増設は必須だが(笑)。

 やりたいことがやれるのなら、次に必要なのは、やっぱりデザインだ。コンピュータはいつでも目の前にいる。タワー型なら机の下に置くこともあるが、それでも机の上に置いている人は少なくない。それは、CDを入れるとか、USBケーブルをつなぎ直すとか、何かとマシンに触れる機会があるからだ。そうなると――つまりデスクの上にあるとなると――やっぱりデザインは重視したい。と同時に、机の上でスペースをとられたくない。そこにコンパクトの良さが生まれてくる。

 やりたいことがやれて、デザインがシンプル&スタイリッシュで、デスクに載せても大きさが気にならないコンパクトさを持つCube。コンピュータは特別なものではなく、身近に置いて、日常的に使うということが当たり前になりつつある現在、Cubeはあるべき姿なのではないだろうか。SE等コンパクトマックで目指したAppleの「完成品の供給」は、今、形を変え、さらに時代にマッチしたスタイルで、再登場しているような気がする。これはもしかしたらリインカーネーションかもしれないが、言い方を替えれば「Appleの考え方に時代が追いついた」と言えるのかもしれない。

 何はともあれ、こちらの感性をくすぐるマシンの登場は大歓迎だ。2年前のiMacの登場にも匹敵するインパクトを、Cubeは与えてくれた。

(発売は8月中旬とか。日本ではエントリーバージョンが198,000円。これは安いと思う。やっぱりこれは「買い」だろう)

copyright : Masaru Inagaki(2000.7.20)

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