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イチオシ
3DCGと2DCGの共生
稲垣 優

 アニメーションの『Toy Story』を初めて見たとき、すごいと思った。さすがにJobs率いるpixerの作品だけあり、ディテールがしっかり描き込んであるなあと感心したものだ。フルデジタルという意味では世界初の作品だけど、単に「デジタルだぞ。すごいだろう」という映画ではなく、ちゃんと友情とか、いたわりとかの人間的な部分が織り込まれているのもよかった。吹き替えに所ジョージが出てるのもよかった(^_^; 。

 今や、映画と言えばデジタル全盛。ハリウッドも、コンピュータ・グラフィックスなしに映画は作れないんじゃないかと思われるほど多用している。最近じゃあ技術が進んだおかげで、いかにもCGって感じじゃなくなってきたから、それはそれでいいと思う。コンピュータを使っても使わなくても、要は作品が面白いかどうかが問題なんだからね。

 で、最近また、いつものビデオ屋「フカツ」で、新しい作品を見つけた。日本のアニメだ。『青の6号』という。潜水艦ものなんだけど、なんか昔の「サブマリン606(じゃなかったっけ?)」とダブっちゃって、どうもいけない。内容は違うけどね。

 たまたまビデオ屋で見つけただけで、どういう作品かは、全く知らなかった。ちょっと見てみようかねえ――くらいの軽いノリで借りてきた。店頭に出たのは10月のようだから、もう1カ月以上たっているんだが。

 内容はといえば、近未来の戦闘世界の話。悪の軍団が人間を根絶やしにしようとするという、まあ、ありがちな話だ。ここら(東海地方)あたりでは放映されていないテレビアニメのようで、20数分で一話が終わる。ビデオには一話しか入ってない。東京あたりで放映してるんだろうか。そのあたり、よく分からない。

 内容(ストーリー)的には、そこそこ出来がよく、早く第二話が見たくなった。

 で、なんでこのアニメを「イチオシ」コーナーで取り上げたかというと、これまでにない(私が知らないだけかもしれないけど)試みがされているからだ。それは3DCGと2DCGの共生だ。

 『Toy Story』は、完全なフルデジタル3DCGだった。街並みや木立まで、全部三次元で描かれていた。だからすごかったんだけど、いかんせん人物が、いただけない。おもちゃが主人公のストーリーだからかもしれないが、3DCGの人間は、生き物としての人間ではなく、おもちゃのように見えてしまうのだ。あれさえクリアしていれば、もっとすごかったのにと、うちにあるビデオを見るたびに思う。

 で『青の6号』は、その辺を、ある意味ではクリアしているのだ。上で「3DCGと2DCGの共生」と書いたが、まさにそれで、いわゆる3DのCGだけでなく、普通のアニメの絵が随所に挿入されている。これらは当然2Dで描かれており、基本的には手書きだが、3Dとフィルム(ビデオ)上で合成しているとは思えず、たぶんデータ化されていると思う。だからクレジットに2DCGという言葉が出てきたのだろう。

 これまでにも、3DCGをアニメーションに組み込んだものはあった。しかし『青の6号』は、3DCGアニメーションに2Dの動画を組み込んだカタチになっている。ここが大きな違いだ。部分的なシーンにCGを使うのではなく、基本は3DCGだけど、必要に応じて2Dを織り込むというカタチになっている。

 人物はすべて2Dだ。メカはほとんどが3D。ただし人物と絡む部分(メカから人が降りてくるとか)は、全体が2Dになっている。だから同じメカとか建物でも2Dと3Dがあるわけで、このあたりにちょっと違和感があった。でも、来るべきアニメの新しい形って気がして、ウキウキしながら見てしまったんだ。

 以前、テレビ愛知(テレビ東京系)に『ビーストウオーズ』というアニメがあった。子どもたちが見ていたのを垣間見たのだが、当初こいつは、3DCGのフルデジタルだった。で、トランスフォーマーものだから、変身と戦闘がメイン。その分、速い動きが求められるので、あまり描き込んではいなかった。それに背景は、おざなりって感じだったのが気に入らなかった。「3Dデジタルでやることが目的」のように見え、興ざめだった。案の定こいつは、今では普通のアニメに変わっている。

 もっと前に「ビット」という天使が出てくるフルデジタルのアニメがあった。ギリシャ神話の登場人物を出してアニメ化したもので、これもたしか3DCGだったように記憶している。この作品も、あまり長く続かなかった。

 アニメに限らず映像ものは、やっぱり内容が命(ま、なんでもそうだけど)。だから、いくらきれいな絵でも、いくらコンピュータを駆使しても、話として面白くなくてはなんにもならない。

 ウルトラマンが一時、コンピュータ化で話題になったが、そのころそこそこの視聴率を稼いでいたと言われる「ウルトラマン・ティガ」は、確かにAdobeか何かのソフトウエアでいじった映像がよく見られ、それなりにすごかった。しかしそれだけでなく、やっぱり内容的に面白いものが多かったから、視聴率がよかったのではないだろうか。今の「ウルトラマン・ガイア」は、子どもと一緒に数度見たが、なんだか続いて見たい気がしない。映像的には凝っているんだが。

 さて、なんだか、だらだらと書いてしまったが、言いたいことは「3DCGと2DCGの共生は新しい境地を作るか」ということだ。『青の6号』を見てもらえば分かるが、はっきり言って、場面の移り変わりの部分(3Dと2Dが切り替わる)で違和感を覚える。でも人物はやっぱり2Dの方が「安心」して見ていられる。また人物以外は3Dの方がカッコいいし、ものすごく迫力がある。『青の6号』第一話の後半戦闘シーンで、敵の生物系潜水艦が水面に躍り上がる部分があるが、一瞬、現実かと思わせるほどリアリティーがある。水の描写も美しく、水しぶきなどは、若干「薄く」感じるものの、海中シーンはさすがに出来がいい。見ているうちに、少しずつ3Dと2Dの混合が気にならなくなっていく。

 要は、どういうシーン展開をするかということで、メカばりばりのシーンに人物を書き込まない、あるいは3Dと2Dを合成するようにすればいいのかもれない。ただそうした合成は、もしかしたら陳腐な映像を作り出してしまうかもしれないが……。

 さて、プロジェクトチームDOGAという任意団体がやっているアマチュアのCGアニメーションコンテストをご存じだろうか。今でもやっているかどうかは知らないが、少し前のコンテストで、地元三河の人が入賞しているのを見た。彼の作品は、まさに『青の6号』状態で、3Dと2Dが混在していた。その後、彼はCGに精を出すために東京へ行ったと聞いたが、その後どうしているのか。もしかしたら『青の6号』の作成にかかわっているのかもしれない。

 コンテストの審査員だか取材記者だかが、彼を評して書いた言葉が脳裏に残っている。

「3DCGとアナログのアニメが合体しているのは、新しい試み。今後のアニメーションの主流となるかもしれない……(こんなようなことを言っていた)」

 ということで『青の6号』は、なんとなく要チェックな気がする。次回ビデオ発売は1999年2月25日。またビデオ屋さんへ走らなくっちゃ。ただし、内容がつまらなくなってしまったら、せっかくの「試み」も台無しだけど……。

copyright : Masaru Inagaki(1998.12.2)

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